正確な財務情報は、単なる法令遵守のためだけのものではありません。企業が適切な経営判断を行い、業務上のリスクを管理し、日々の報告に対する信頼を維持するための重要な基盤です。
しかし、報告の正確性は経理部門だけで支えられるものではありません。企業の成長に伴い、情報は複数の部署やシステム、業務プロセスを経て経理部門へと集約されます。その過程で明確な手順や十分な管理体制が整備されていなければ、不整合が徐々に生じ、業務記録と財務報告の間に差異が発生する可能性があります。
本事例は、当社の会計アウトソーシングチームが支援したプロジェクトに基づいています。詳細なレビューを通じて、業務記録と会計記録の間に重要な差異が発見され、その解消に向けた取り組みが報告プロセスや部門間の連携、内部統制の強化につながった事例をご紹介します。
業務記録と会計記録の間に生じていた大きな差異
物流業を営むクライアント企業に対するレビューを実施した際、当社は在庫記録と会計記録の間に不一致があることを確認しました。
同社にとって在庫は事業運営を支える重要な要素であり、正確な在庫情報は財務報告だけでなく、業務計画や経営判断にも大きく影響します。調査を進めるなかで、業務上の在庫記録と会計記録との間の差異が看過できない規模にまで拡大していることが判明し、早急な対応が必要な状況となっていました。
差異の規模を踏まえ、その原因を特定し、報告の正確性への影響を把握するため、さらなる調査を実施しました。
当時、在庫の移動は手作業で管理されるファイルによって記録されていました。倉庫への入庫や出庫が発生するたびに、現場担当者が記録を行い、その情報を経理部門へ共有する運用となっていました。
当社はクライアントから提供された情報や関連資料に基づいて会計処理を行っていました。しかし調査の結果、現場で記録された在庫移動情報が、会計記録に必ずしも適切に反映されていないことが明らかになりました。
この差異は長期間にわたって蓄積されたものでしたが、同時に、多くの成長企業が直面する共通の課題も浮き彫りにしました。それは、業務プロセスが複雑化するなかで、業務情報と財務報告の整合性を維持することです。
数字の背後にある原因を探る
差異の発見は、あくまでも出発点にすぎませんでした。
当社は単に過去の記録を修正するのではなく、クライアントの現場部門および経理部門の担当者と協力しながら、なぜ差異が発生したのかを分析し、将来に向けて報告の信頼性を高めるための改善策を検討しました。
1. 根本原因の特定
調査の結果、問題は単一のミスによるものではなく、複数の業務プロセス上および情報共有上の課題が重なって発生していたことが分かりました。
一部の在庫移動情報が現場部門と経理部門の間で十分に共有されておらず、その結果、会計記録に反映されていない取引が存在していました。
また、在庫管理プロセスそのものにも課題が見つかりました。調整取引や取消処理、返品処理などが、Excelベースの在庫管理記録に適切に反映されていないケースも確認されました。
こうした不整合が時間の経過とともに蓄積し、業務記録と財務報告の差異を拡大させていました。
この事例は、手作業中心の業務プロセスに大きく依存している企業が直面しやすい課題を示しています。複数の部署や管理部門にまたがるデータの整合性を維持することは容易ではありません。
2. 報告プロセス全体の見直し
調査を進めるなかで、差異を修正するだけでは同様の問題の再発防止にはつながらないことが明らかになりました。
そこで、在庫情報がどのように記録され、確認され、承認され、最終的に経理部門へ共有されているのかについて、報告プロセス全体の見直しを行いました。
その結果、業務手順の標準化、責任の明確化、部門間のデータ連携の改善など、多くの改善余地が確認されました。
これにより、将来的に在庫移動をより正確かつ一貫性のある形で報告できる体制づくりにつながりました。
3. 業務プロセスの改善
調査結果に基づき、以下の改善策を提案しました。
将来の報告の基準となる信頼性の高い在庫データを確立するため、包括的な照合作業を実施
在庫記録および報告手順の標準化
会計処理に必要な情報を、取引登録前に確実に収集する仕組みの整備
現場部門と経理部門のコミュニケーションおよび情報共有体制の強化
記録の追跡可能性と証憑管理の強化
手作業による調整や例外対応への依存度の低減
こうした取り組みによって、業務記録と財務報告の双方における信頼性向上につながりました。
4. 将来の成長を支える基盤づくり
このプロジェクトの価値は、差異の解消だけにとどまりませんでした。
レビューを通じて、経営陣は組織内で情報がどのように流れているのかを、これまで以上に把握できるようになりました。また、内部統制を強化するための改善余地も明らかになりました。
その結果、将来の報告体制を支えるより強固な基盤が整備され、記録の正確性に対する信頼が高まるとともに、同様の差異が再び発生するリスクの低減にもつながりました。
経営者・事業責任者が知っておくべきポイント
報告上の問題は、必ずしも会計処理上のミスだけによって発生するものではありません。
多くの場合、その背景には業務プロセスと財務報告の間に存在する情報連携上の課題があります。
企業が成長するにつれて、在庫管理、販売取引、購買活動、その他の業務データは、異なる部署や担当者によって管理されるようになります。そのなかで、明確な手順や管理体制が整備されていなければ、不整合が徐々に蓄積し、重大な問題となるまで発見されない可能性があります。
会計および報告プロセスの定期的なレビューは、次のような効果につながります。
潜在的な報告リスクの発見
財務情報に対する信頼性の向上
内部統制の強化
現場部門と経理部門の連携強化
より信頼性の高いデータに基づく意思決定の支援
CFO、経理マネジャー、経営者にとって、信頼性の高い報告体制は単なるコンプライアンス要件ではありません。適切な経営判断と持続的な成長を支える重要な基盤です。
会計アウトソーシングがもたらす価値は、法令対応だけではない
本事例は、効果的な会計支援が単に財務報告書を作成することだけではないことを示しています。
優れた会計パートナーは、業務プロセス上の課題を発見し、報告の信頼性向上や内部統制の強化を支援するとともに、業務改善に役立つ知見や示唆を提供することができます。
会計の専門知識とコンサルティングの視点を組み合わせることで、企業は報告上の問題に対して対症療法的な対応を続けるのではなく、その根本原因に対応することが可能になります。
業務記録と会計記録の間には、時間の経過とともに想像以上の差異が生じることがあります。特に、スプレッドシートによる管理や手作業による照合作業、複数部門による情報管理に依存している企業では注意が必要です。
報告プロセスを早い段階で見直すことで、潜在的なリスクを大きな問題へ発展する前に特定し、対応することができます。
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